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Vignette from the Book

本などを紹介しています

『状況に埋め込まれた学習』

ずいぶん時間が空いてしまいました。忙しかったのもありますが、ブログを書くことの位置づけを考えて色々迷っていたということろもあります。そのことについてはまた、少し書くかもしれません。

学習を捉え直す

さて、前回は文化的、伝統的なものというのは、変化がなくそこにあるものではなく、変化の中で、関係性が構築されていくという所にポイントがあるという話を、環境社会学者の鬼頭秀一さんの本に触れて紹介しました。

vignette1101.hatenablog.com

今回取り上げ る本はそれに関連して、教育の観点から、自己と外部の関係性について論じているレイヴ&ウェンガー『状況に埋め込まれた学習』を取り上げたいと思います。この本はちょっと要約が難しいので、気になったポイントを私なりの言葉でお伝えしたいと思います。

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この本では学習を認知的な観点から捉え直しています。認知という言葉をあまり安易に使うのは良くないかもしれませんが、ここでは個人がどのように社会を認識するかという観点を示していると考えて頂ければよいと思います。簡単に言うとレイヴ&ウェンガーは、学習は共同体に参加する過程で起こる相互作用=創発が重要であると考えます。一番イメージしやすいのは徒弟制でしょうか。本書にはいくつかの徒弟制の例が挙げられています。(徒弟制というと私は大工仕事を思い浮かびます。これに関する素晴らしい本として『棟梁―技を伝え、人を育てる』という本があります。お勧めです。)レイヴ&ウェンガーは徒弟制からさらに議論を進めて、正統的周辺参加という概念を設定し、教える−教えられる関係性を実践共同体という見方に置き換えます。

周辺的参加と実践共同体

この本の特徴は学習を、個人的なものから、集団的なものに捉え直しつつ、アイデンティティと参加という個人的な領域を重視しているところにあります。学ぶものがはっきり存在しているわけでなく、はっきりしないが故に、共同体に組み込まれ、関係性を作っていく中で学んでいくということを理論化したいという著者の動機が感じられます。そのことを強く表しているのが「正統的周参加」という中心概念です。それを知るために、本書の第一章冒頭部分を引用します。

正統的周辺参加」は、新参者と古参者の関係、活動、アイデンティティ、人工物(artifacts)、さらに知識と実践の共同体などについての一つの語り口を提供するものである。これは新参者が実践共同体の一部に加わっていくプロセスに関係した話である。一人の人の学習意図が受け入れられ、社会文化的な自薦の十全的参加者になるプロセスを通して学習の意味が形成される。

色々難しい所はありますが、「周辺」という言葉に着目すると、わかりやすいかもしれません。ここでいう「周辺」は「中心」に対する「周辺」です。学校教育などで教えることが予め決まっていて、そこに参加するようなことが「中心」参加するということでしょう。これに対して、「周辺」というのは「中心」を持たない、関係性の中で自分の重要なことを知っていくというような学習になります。これとセットになるのが実践的共同体という概念です。この本の「実践」は社会学的な背景を持つ概念ですが、そこはとりあえず置いときます。簡単に言うと、社会の一員として行動する場合には、切り離された知識を学ぶのではなく、その共同体の中で繰り返し、確認される作法のようなものとして身に付ける必要があるという意味が含まれます。学習を含め、様々なものが個人主義的になる中で、協働が重要になるとも言われています。その中ではこのような理論化は以外と効いてくるのではないかというのが、この本を読んで私が伝えたいことです。

次回に続きます。